生まれたばかりの大人 ツネ蔵
その時は突然やってきた。
アレッ？前を走る車のナンバープレートの４ケタの数字が一つ読め
ない‥。
それが始まりだった。
交差点で信号が赤に変わり、右折ラインの先頭で停車した。
後ろの車が「ブッブブッブー」と激しくクラクションを鳴らす。
信号を見上げるとやっぱり「赤」。不思議に思う。
右折可信号の青の矢印信号を見逃したようだ。いや、見逃していたのでは無く「見え
なかった」が本当なのだろうか。
何で…？と思い、最寄りの眼科を受診。直ぐに大学病院を紹介された。
部長先生の話では「難しい手術ではありません。１ヶ月程度でまた、車を運転出来ま
すよ。」
その言葉で手術を決心。会社から長期休暇を頂いた。
ところが‥。
施術中の先生方の会話は、10年たった今でもとても文字に出来ない。思い出すだけで
体が震える。
いろいろといじられて目は豆腐のように崩れてしまったようだった。何も映らなくな
った。
長期の入院。手術は両眼を合わせると１０回を越えた。結果、眼圧のコントロールミ
スもあり両眼の光を全て失った。
全盲って何？暗闇なの？
いや、自分の目は開けても閉じても真っ白。まるで映写前の映画館のスクリーンのよ
うだ。
失ったものは目だけでは無く、実に多くのモノだった。
好きだった車の運転も趣味としていたボウリング、ビリヤード、ダーツ、観賞魚、ラ
ジコン、サッカーいろいろ。
もちろん仕事の復帰も不可能に。
「何故？自分だけが‥」
そんな想いもあり、涙もした。
始めのうちは自宅マンションの隣人にも仕事で出張と話して、一日中息をひそめてい
た。。技術資格もいくつかあったが、全盲では何の役にも立たないものばかり。
動けない体は若いにもかかわらず、４０肩の状態に陥る。通院以外は殆ど外に出ない。
挫折か‥？気力も無くなる‥。
しかし、子供の頃から好奇心いっぱいで器用な方だった。そして、それは消えてはい
なかった。
歩行訓練もしてみたが、自分は他の人が出来ない事をやってみたいという思いが膨ら
んだ。そこから人生の再スタート！生まれたばかりの大人「ツネ蔵」の誕生！
８０年代のポップスが好きだった。ギターを独学で弾く日々。
あれから１０年の時が流れた。
１０歳。決して天(テン)才ではないな。何をやるにも１０倍の時間がかかっているん
だな、と苦笑いしながら思う。
カラオケは思うように歌えなくて苦手だが、自分でアレンジしたものや作曲したもの
なら歌うのも可能なのかも‥。暇を見つけてはギターを手にし、ストロークやアルペ
ジオ。作った曲は昭和のムード歌謡(笑)と言われた。
コンテストにもチャレンジしてみた。
「ゴールドコンサート」に連続３回出場する事
が出来た。
2009年のあのステージで燃え尽きてしまったが、若いチェレンジエントリー
達と競い合った事で自分も成長出来た。
音源はHP「ツネ蔵の世界」で検索して楽しめ
ます・・とちゃっかりここでコマーシャルしておこう。
弦を押さえる左の指先は「タ
コ」になってしまった。ブレーメンの音楽隊を結成して福祉授業や慰問コンサート等
の活動も始めた。
やってみるものだなあ。
点字付のルービックキューブは１０分程度で６面を揃えられるようになってきた。祭
りのヨーヨー釣りは５ヶは釣り上げられる（笑）
見えなくても工夫次第で何とかなる。広い所であれば、全速力で走る事も出来る。居
合道だって、またできるはずだ。
不便であって不自由で無い。
たくさんのものがユニバーサルデザイン化されるといいなと思っている。
そして、得たものは沢山。
以前よりずいぶん優しい心を持てた事と、失明してから多くの人に出会えた事。
まだまだ修行の日々は続く。
前を向いていきたい。
いつまでも夢のつづきを見ていたい。
★ツネ蔵サウンド★
“ファー イースト ウィンド♪” 第６回ゴールドコンサート エントリー
ラララ ララ
途絶えた靴音
壊れた腕時計
終わるはずのない
夢が終わって
古いブルース
レンガ通りに
夕陽が染めてくショウウィンドウ
黄昏の空の色
淡く燃えて
乾いた唇
ガラスの音をたて
砕けて舞い散る
メロウなボサノバ
イチョウ並木に
嘘のようなネオンサインの街
消えてゆくフォトグラフ
面影は
やがて来る闇に
包まれてゆく
ララララララ
立ち上がるオリオンに想いを重ね
一億の旅の果て
降り注ぐ星
一億の夜を越え
輝く銀河
東から風を受け
訪れるメロディ
東から風を受け
胸に広がる
ラララ ララ
「かけはし」リレー随筆は「西 かおり」さんにバトン渡します
作文は小さい頃からとても苦手だそうで(苦笑)
ツネ蔵